底なし夜に潜水中
 雨音と雑踏が渾然とした旋律を奏でるこの夜は、孤独を紛らわすのに、きっとうってつけだった。
 気紛れな神様は、怠惰な平民に試練を与えることがお好きらしい。予報になかった通り雨が、切り裂き魔のように次々と通行人を破滅に追いやっていく。帰宅ラッシュの時間帯を狙った計画的な犯行だとしたら、実に厄介極まりない。かく言う私も、野ざらしになって寒気に取り憑かれた被害者のひとりだ。会社の最寄り駅まで走り抜ける余裕もないくらい、酷寒に降り注ぐ驟雨は私の活力を極限まで削り落としてくれた。どうにか雨宿りができそうな無人のバス停まで辿り着いたものの、既に疲労は溢れ返っている。ここから駅まで雨曝しの刑を受けて、濡れた衣服が密着せざるを得ない満員電車に揺られ、また駅から自宅までを風雨に曝されて……。帰路を思い描くだけでも気が滅入った。活路を見出そうにも、思考さえ雨に打たれて仄白く烟っていく。天災に打ちのめされる虚無感に包まれながら、上の空で立ち尽くしている私を強制的に引き戻したのは、雨を劈く甲高いクラクションだった。
 はっとして車道に視線を寄せる。いつの間にか高級感溢れる黒塗りのセダンが路肩に停まっていた。見覚えがある、どころではない。もはや私の愛車と呼んでも差し支えないほど――と口に出したら轢き殺されかねないのでここだけの話だが――、その助手席には幾度も身を委ねている。とはいえ、この展開はさすがに予想外だった。寧ろ誰か予想できようものか。偶然か、はたまた必然か。とにかく私は巡り会ったこの幸運にあやかるべく、駆け足で車に近寄った。躊躇なく助手席側の扉に手を掛ける。ドアを開いた先の運転席に腰掛けていたのは案の定、私の首根っこに鎖を繋いでいる王様だった。
「持田さん」
「さっさと扉閉めてくんない? シート濡れるじゃん」
 出会い頭早々に暴君めいた小言を唱えて、持田さんは私の腕を力ずくで引っ張った。乗り出していた上半身につられて下半身も丸ごと車内に引き入れられる。仰せの通りに慌てて扉を閉めると、途端に静寂が閉じ込められる。フロントガラスを跳ねる雨音だけが絶え間なく鼓膜を濡らした。
 この車の所持者である持田さんは、長い脚を器用に折り畳んで、けして広くはない座席にコンパクトに収まっている。太陽が鳴りを潜めている今、無用の長物である筈のサングラスを掛けているのは、恐らくマスコミ避けの対策だろう。注目度や悲劇性の高い話題に節操なく集るのが彼等の習性だ。このご時世、この状況下で格好の餌食となるのは間違いなく――……。その結論に行き着いて、不安を持て余したまま隣を一瞥する。外野による無神経な暴風雨に全身を貫かれているのに、持田さん本人は飄然としているようにも、湧き上がる殺気を溜め込んでいるようにも見えた。薄暗い車内において、人間離れした彫りの深い顔立ちは、まさしく彫刻のように感情を覗かせない。嘲笑という彼特有の非言語的手段を取っ払っても、その真髄は奥深くで眠りに就いたままだ。
「……え、わっ!」
 私の湿気った女々しい視線を遮るように、持田さんは自身のバッグから取り出したマフラータオルを放り投げた。動体視力が追い付かず、見事に顔面で受け止める。私の失態を横目に、彼は軽快に鼻で笑っていた。
「ありがとう、ございます」
「別に。貧相な濡れ鼠が痛々しくてさ」
 受け取ったタオルでありがたく濡れそぼった髪や肌に吸い付く水滴を拭き取る。私の地味な作業には目もくれず、持田さんはエンジンを吹かして車を発進させた。
 一体どこに普段の凶暴な性質を置き去りにしてきたのか、持田さんの運転は穏やかに凪いでいる。丁寧なハンドル捌きと余裕を含む目配せが、降雨の影響を微塵も感じさせない安定感を生み出していた。雨道を行く疾走とは雲泥の差を誇る快適さに、ただ感謝するばかりだ。むろん、この人は無償の厚意を施してくれるほどの慈悲に富んだ菩薩ではない。盟友でもなければ恋人でもない私達の狭間には、相応の対価が横たわっていなくてはならない。それを裏付けるように、車は呆気なく駅前を通り過ぎてしまった。野暮だとは思いつつ、時間を溶かすにはあまりに長い沈黙だったため、耐えかねて思わず口を滑らせてしまう。
「……ホテル行くんですか?」
「さあね。お前はどうしたいの」
「疲れたので帰りたいです」
「はっ。生意気な口にはお仕置きが必要だなぁ?」
「んっ、ぐぅ」
 媚び諂う気のない私の率直な発言がよほど気に食わなかったのか、持田さんは遂に潜ませていた本性の牙を剥いた。信号待ちのブレーキを合図に、彼の逞しい腕が伸びてくる。後頭部に回った左手が易々と私を引き寄せると、勢いそのままに貪り尽くすような口付けを施した。火傷しそうな熱い舌先が隙間から割り込み、口内を荒々しく蹂躙する。独裁に拍車をかけて執拗に肉迫するこの姿は、まさしく百獣の王と称するのに相応しい。飢えを満たすには本能ひとつあれば十分だとばかりに、烈しい追従が続く。抵抗する余力も削げ落ちて、されるがままに唇を預けていると、やがて信号が青色に点灯した。横暴を働いていた薄い口唇は、まるで何事もなかったように日常へと帰還していく。こっちは恍惚の余韻から抜け出すにも一苦労だ。言葉や酸素は疎か魂まで根こそぎ吸い取られてしまった心地で、鼻筋の通った美しい横顔を呆然と見つめる。大衆を惹き付けるサッカー選手の魅力を今更語るまでもないけれど、至高の絵画すら見劣りするこの端正な相貌は、その人気を加速させる要因のひとつだろう。報道陣にフラッシュを焚かれる心配のないくらい、車窓が雨露のベールに包まれていて良かったと心底思った。
「よくもまあ、俺の前でそんな色気のない声出せるねえ」
「そっ……そんな色気のない女に欲情してるのはどこの誰ですか」
「……へぇ、次の信号で舌噛ちぎられる覚悟できてんだ?」
 するりと喉元を通り抜けてしまった反論と、同時に皮膚を掠めた鋭い睥睨に、背筋が凍り付く。冗談であってほしいという一縷の願いを込めながら、本気で首を横に振った。生憎、そんな自傷的な覚悟は持ち合わせていないし拵える気力もない。取り乱した私の狼狽がお気に召したのか、次の交差点で停車しても持田さんは口角を上げて前を見据えるのみだった。
 持田さんという特異な存在が私の生活に侵食するようになったのは、丁度一年ほど前のことだ。知人に連れて行かれた会員制のバーで、サッカーとはかけ離れた世界に佇むその人を目撃した。カウンターに腰掛け、静謐を纏ってなだらかにグラスを傾ける持田さんは、緻密かつ大胆なプレイで相手を翻弄してはせせら笑う国民的スターとは似ても似つかない雰囲気だった。声を掛けたのは知人だったが――彼女は相当コアなサッカーファンで目敏く彼の素性を見抜いてしまった――、結果的に彼の懐に滑り込んだのは私だった。ちなみに口に出さないだけで、今となっては私の方が持田選手のサッカー事情に詳しいまである。誰にもどこにも放出できないトップシークレットだ。
 持田さんが私のような凡庸な人間に首輪を嵌め込んだ理由は、都合が良い、その一点に尽きるだろう。プライベートを詮索しない、自己顕示欲を振り撒かない、肉体関係の先を望まない、――そして、サッカーに纏わる話題を提示しない。一年という年月を掛けて編み出した私の不文律だ。これさえ遵守していれば、忘れた頃に持田さんは連絡を入れてくれたし、気の赴くままに逢瀬を重ねてくれた。身体の至る所に刻まれた所有欲が途絶えることもなかった。手駒のひとりに過ぎない自覚はある。粗相ひとつで彼は何の音沙汰もなしに行方を晦ませてしまうだろう。今にも千切れそうなくらい希薄な繋がりで、そこに執心も愛着も存在しない。ただ、いつしか滅びゆく関係だと分かっていても、持田さんに抱かれる心地良さを味わってしまえば、彼の圧制に歯向かうことなどできなかった。
 ワイパーが堅実に働いても、怯むことなくガラスを威圧する雨粒がその成果を霞ませる。俄雨の領分を越えた豪雨が、東京の地をしとどに濡らしていく。しかし、この静まり返った車内では、その全てが映画の中にしか実在しない虚構のように思えた。荒れ狂う外界も傘にしがみつく人々も、もはや他人事だ。私の世界に居座っているのは、いつになく寡黙を貫く王様だけだった。

 その矢先、唐突に世界の切り裂かれる音がする。弛緩していた私の意識は現実へと帰還した。息を呑む。持田さんに名前を呼ばれることなんて数えるくらい、それも情事の最中にあったかもしれない程度のあやふやなものだ。日常的には「おい」だの「お前」だのが私の渾名として成り代わっていたから、当然困惑した。
 戸惑う理由はもうひとつ存在した。たゆたった声音は彼らしくもない、吹けば飛び散ってしまいそうな儚さと仄暗さを滲ませていたのだ。まるで母親とはぐれて居場所を欠いてしまった子どもが涙を堪えて祈るような、そんな印象を与えた。不安に駆られて視線を泳がせる私に反して、猛禽類のように尖ったまなこは微動だにしない。そして、その印象が覆ることはなかった。
「今日はお前の好きなとこ、連れて行ってやってもいいよ」
「……え?」
「海の中でも谷の底でも。お望みなら墓場の土中でも良いけど?」
 予定にもなければ前置きもなかった出し抜けの提案が、私に微かな閃きを走らせる。多忙に憔悴を重ねる持田さんが、どうして私なんかを拾うために車を走らせてくれたのか。性欲を発散するだけの馴染みのルーティンなら、こんな希死念慮すら窺わせる奇抜な発案をする必要なんてない。首輪を引っ張って強制的にホテルに連行すれば良いのだから。持田さんの得意分野だ。でも、今夜はそうしなかった。そうじゃなかった。――この人は、きっと理由を探し倦ねているのだ。自分が空っぽな人間に沈んでしまわないための存在意義を求めて、孤独の海を彷徨っている。
 日本のみに留まらず世界までも圧倒する筈だったフットボール界隈のトップ・プレーヤーは、神様のさもしい愚弄によって、またもその挑戦を断念せざるを得なくなった。
 持田さんが左足に爆弾を抱えながらピッチに立っていること、自分の余生すら燃え尽くすほどの執念でゴールに迫っていること、――そして、代表入りを目前に控えながらも先日行われた東京ダービー戦で左膝を故障してしまったこと。全部知っている。当然、彼の口から直接聞き出せるわけがないので、メディアやネットが主たる情報源だ。持田さんを表面上でしか捉えていない人間からの伝聞となれば、信憑性は欠けるだろう。でも、この特殊な関係で結ばれた私は、ピッチの上ではなくシーツの上でそれを痛感してきた。勝利への飽くなき渇望を肌身に焼き付けられたし、離脱に際して蓄積された鬱憤の掃き溜めにもなった。暴力的で支配的なセックスが繰り広げられるのは大抵、報道機関が彼の怪我や引退について下世話な言論を交わすときだった。試合が好調だった日には、執拗な愛撫を施されて脳髄から溶けていくようなセックスをした。持田さんほど、一夜の性交にその日の感情を反映させてしまう素直なひとはいないだろう。
 そんな人が、最大の屈辱を受けた数週間後に、私の前に現れた。研ぎ澄ました牙を潜ませて、代わりに深沈とした荒涼感を引き連れて。他人の心中を理解することはできなくても、持田さんの心中を推し量る術なら知っていた。幾度となく彼の混濁した感情をぶつけられてきた経験が、ようやく生かされる。――恐らく、この人は人生で初めてサッカーとは無縁の世界を望んだのだ。左膝を痛めて離脱した悲劇の瞬間を忘れ去るように、厚かましい外野の過干渉を遠ざけるように。いくら持田さんが堅固な意志に突き動かされて理想を目指しているとしても、ずっと走り続けることは困難だ。限界を迎えて集中が途切れる日がきたとしても、何らおかしくはない。膝の故障を経て立ち止まることを余儀なくされた彼は、それでも自分の居場所を手繰り寄せるように、手頃な私の存在を思い出した。サッカーに頼らずとも自分を必要とする存在に、ぽっかり開いた空洞を満たすまではいかなくても、気休め程度の安息を期待して。雨下の邂逅は、そのための画策だったに違いないのだ。
 あれだけ傲慢に我儘を振りかざしているのは、裏を返せば自分をより厳しい世界に縛り上げるための戒律でもあるのだろう。サッカーに関してはとことんストイックでハードワークも惜しまない、それが持田蓮という選手の特性だ。もっと気楽に、たまには寄り道するくらいの気楽さを会得してしまえば良いのに。そう思わずにはいられないけれど、プロ選手として輝ける時間が限られている以上は、並の情熱で向き合うことなどできないのだろう。こと持田さんのように、大いなる展望を掲げて多少の無茶も厭わない人なら尚のことだ。
 ならば、私の成すべきことはひとつだった。例え不文律を犯すことになっても、この関係が崩れ去ることになってでも。持田さんが流れ着いて良い場所は、海の中でも谷の底でも、墓場の土中でもない。ましてや私の隣なんて以ての外だ。日の目を見ない陰鬱とした世界なんて、彼の輝きには見合わない。それこそ寄り道程度で十分だ。
「そんなところ、持田さんには似合わないです」
「……何だって?」
「あなたはピッチの上が一番似合ってます」
 迷いはなかった。後悔もなかった。あるとしたら、それは持田さんへの未練をそう易々とは捨て切れない、自分自身への不甲斐なさだ。笑ってしまうくらい、呆れ返ってしまうくらい、彼に執着を抱いていたのは私自身だった。
 この寄り道がフラストレーションの発散に繋がるなら、甘んじてその役目を引き受けよう。いくらでも身体を差し出すし、寄り添う時間だって捻出してみせる。けれど、最後にこの世界から旅立つ背中を押すのも、きっと私の役目だ。彼がボールを蹴り続ける未来をみすみす手放すわけがない。諦めの悪さこそ、持田さんの真骨頂だ。
 プライベートに無断で立ち入った上に土足で踏み荒らした女の戯言に、持田さんは神妙な面持ちで耳を傾けていた。けれど、その静粛も一瞬で吹き飛んだ。腹が捩れているんじゃないかと心配になるくらい、機嫌の良さそうな高笑いが車内に響き渡る。持田さんは目尻に浮かぶ涙を拭いながら、清々しい表情を浮かべていた。
「お前さぁ、何勝手に人のことセンチにしてんの? ウケるんだけど」
「……すみません」
「こっちはサッカーやめるつもりなんて更々ないし。俺の野望がこんなところで終わるわけないじゃん」
 文句を垂れながらも、その賑々しい声色にはもう肌淋しい印象は残っていなかった。私の後押しがあって鼓舞されたというよりは、私の愚見がさぞ滑稽だったのだろう。予想は強ち外れてはいないと思うけれど、私の想像以上に持田さんの覚悟も野望も奥深くまで根差していたということだ。骨折り損だったかもしれないと、脳裏を掠めた不服はすぐに鳴りを潜めた。この人が夢を追い掛けて野心を燃やし続けているなら、そしてその後ろ姿を追い掛けることができるなら、それだけで十分だ。
 私生活に深入りした都合の悪い女と化したことで荒天の下に突き出されるかと身構えていたけれど、私のぎこちない素振りなんて意にも介さず、持田さんはアクセルを踏み続けた。そして、あろうことか私の自宅も行き着けのホテル街も通り抜けて、都内屈指のタワーマンション街へと躍り出てしまったのだ。もう察していた。さすがに口を噤んで鈍感のふりをすることはできない。上機嫌で車を走らせる持田さんに縋りつく勢いで怪訝を訴えるも、彼は至極楽しそうに唇を綻ばせるだけだ。
「あーあ、残念。馬鹿なこと言うから帰してやる気なくなった」
「まさか、持田さんの家に行くんですか?」
「そのまさかだけど?」
 まさかのまさか、そのまさかだった。今まで自宅に招き入れてくれたことは疎か、私生活の一切を漏らすことのない徹底ぶりだったのに。玉砕覚悟で臨んだ提言がこんな変化を齎すとは、誰が想像できようものか。車内にまで虚構が広がってきたのかと不安になって、隣の流麗な輪郭を抓ってみたくもなる。そんな愚行を犯してしまうほど思考は衰えていなかったから、自分の手の甲を抓るだけに留めておいた。痛覚はしっかり反応して、ついでに皮膚も赤くなった。紛れもなく本物の現実だ。
 しかしながら、物申したげに顔を顰める私が本意ではなかったようで、持田さんはあからさまに気色ばんでいた。
「取って食うわけじゃないんだから、そんな怯えないでくれる?」
「いっつも取って食われてますけど……」
「……ばーか。今夜くらい、俺の傍にいるのが筋なんじゃないの」
 ただ、その厳かな剣幕から発されたとは思えないほど、不貞腐れた少年のような純粋なぼやきだったから、思わず笑みが溢れていた。あの持田さんにここまで望まれて驚きこそせよ、嬉しくないわけがない。首肯の意を込めて深く頷くと彼は満足したのか、したり顔で優しい吐息を洩らした。
 緊迫感で胃もたれしそうだった夜のドライブも、あと少しで終いのようだ。終盤に向けて、畳み掛けるように雨音の演奏も強く激しく加速していく。けして快くはない旋律に耳を澄ましながら、ぼうっと思いを馳せた。
 神様は気紛れで偏屈で、すこぶる残酷だ。彼に過酷な試練を与えるでは飽き足らず、その試練を乗り越えるための足さえも平気でへし折ってしまう。拷問だ。陵辱だ。人権の迫害だとさえ思えてくる。
 それでも、それなのに、彼は何度だって不死鳥のように蘇る。美しい生き様だ。誇り高き人生だ。それを過去の栄光になんてしてほしくない。どこまでも果敢に高慢に、神様に抗ってほしい。見返してほしい。とんだ災厄を授けられたって、不屈の精神でここまで這い上がってやると、往生際の悪い底なしの輝きを見せつけてほしい。
 雨はまだ降り続いている。依然として止む気配はない。遠来では地球すらも劈くような雷鳴が轟いている。嵐の夜がやって来る。
 でも、今は降り止まなくていい。東京がずぶ濡れになっても構いやしない。土砂降りの雨が神様からの捻くれた挑戦だというなら、いくらでも受けて立とう。耳障りなくらいに姦しい狂想曲が、今夜のBGMにはきっと相応しいのだ。
 走り続けてきたこの人にも、孤独の紛れる夜が一度くらいあってもいい。本当は何度だってあってほしい。そして、私がその隣に居座ることを許されるなら、何にも勝る本望だった。


2022/11/20